前のコラムで「100万ボルトの電流」について電気に関する基本的な言葉についてふれてみました。今回は「100万ボルトの電流」という言葉について別の観点から考えてみようと思います。
まず、この前も述べたように「100万ボルトの電流」のフレーズは全くの誤りです。このフレーズを正しくするためには、電圧の単位であるボルトを電流の単位であるアンペアにするか電圧を電流にするかになるでしょう。ここではとりあえず元のフレーズにより近い「100万ボルトの電圧」に直して考えてみるとします。
では、この「100万ボルトの電圧」っていうのは一体どんなものなのでしょうか。まずはいろいろなものの電圧について調べてみるとしましょう。
乾電池 | 1.5ボルト |
家庭用コンセント | 100ボルト |
電気ウナギ | およそ800ボルト |
静電気 | およそ数千ボルト~数万ボルト |
雷 | 1億ボルト程度 |
ざっと調べてみたところこんな結果が出ました。やはりこうしてみても、雷の電圧っていうのは飛びぬけて大きいですね。ところで、これを見てあることに気付きませんか。そう、静電気の電圧は100万ボルトにはおよばないもののかなり大きな数字になっていますよね。実はこれが今回の話のポイントになるところなのです。
静電気は家庭用電源に比べ数十倍から数百倍の電圧であるわけですから、電圧の大きさが与えるダメージの大きさと比例するのであれば、静電気のほうが家庭用の電源よりもそれにより与えられるダメージは大きくなるはずです。しかし。実際には家庭用の100ボルトでは場合によって感電死することがありますが、静電気で感電死するといったことはありません。つまり、ここでの電圧の大きさは必ずしもダメージの大きさに比例しないというわけです。
実はダメージの大きさは電流の大きさとは大きな関連性をもちます。電流が大きければ大きいほど、ダメージは大きくなります。 でも、これを聞いて「あれっ?」と思った人がいるのではないでしょうか。オームの法則によると、「電圧の大きさと電流の大きさは比例の関係にある」はずです。それならば電圧が大きければ電流も大きくなり、与えるダメージもそれにしたがって大きくなるはずです。では何故そうならないのでしょう。
それは電気の発生源でつくられた電圧のすべてがダメージをあたえるものにかかるのではないからです。例えばドアノブをさわろうとして静電気がパチンときた時には、ドアノブと指との間に電圧のほとんどがかかり、指を通して人体にかかる電圧というのはほとんどゼロになります。このように電圧の発生源と直接触れていない場合には、発生した電圧のほとんどは関係ない部分にかかることになるため、直接のダメージにはならないわけです。
というわけで、「100万ボルトの電圧」っていうフレーズは何かすごいよう聞こえるかもしれませんが、実はそうではないのかもしれないのです。電圧の大きさが大きいから小さいからというのは危険の大きさと関わらないこともあるのです。
ちなみに「100万アンペアの電流」というフレーズについてですが、雷の電流でも数万から数十万アンペアですから規模などから考えるとフレーズとしては適切ではないと思います。それに電流を一定値にするような形で電気をつくるのは非常に困難です。電気をつくることのできる生き物のなかで、電流を基準に電気を作ることのできるものはいません。こういった意味からもこのフレーズはやはり適切ではないでしょう。
Posted by とのす at 2005年06月19日 11:08 | Comment (2)
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